南房総の太平洋岸、外房に位置する和田町は、知る人ぞ知る「クジラの町」。
日本全国でわずか4ヵ所しかない捕鯨基地の一つである和田漁港には、毎年6月末〜8月末にかけてツチクジラが水揚げされます。
和田の人々にとってクジラは、生活に根付いてきた「ふるさとの味」であり、「母の味」。郷土の味覚と、クジラの文化を守り続ける会社をご紹介します。
目次
南房総に根付くクジラ料理
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戦後の日本において、クジラ肉は貴重なタンパク源の食料の一つとして広く食べられていました。1950年代、日本人の摂取する動物性タンパク質の50%以上を占めていた時期も。その頃、クジラ肉は学校給食の中でも人気のメニューでした。
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南房総和田町では、夏に沿岸部に回遊してくるツチクジラを捕獲し、貴重なタンパク源として食しています。代表的なのは、手のひら大にスライスしたクジラ肉を特製のタレに漬け込み天日干する「くじらのたれ」。他にも、「くじらステーキ」や「くじらベーコン」、「くじら汁」、「くじらコロッケ」など多彩なバリエーションのクジラ料理があります。
南房総の捕鯨
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南房総で捕鯨が本格化したのは、江戸時代。1612年、鋸南町勝山の醍醐家により組織化され大きく発展しました。
その頃は網を活用する「網取り法」が主流でしたが、深く潜るクジラには適さなかったため、モリで突く「突き取り法」を採用しました。それが明治時代になり、火薬が入っている捕鯨砲による「ノルウェー式」を導入。現代の捕鯨でも、「ノルウェー式」を採用しています。
昭和23年に旧和田町和田浦に外房捕鯨株式会社が設立され、今もなお南房総の捕鯨の伝統を引き継いでいます。
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日本には4カ所の捕鯨基地があります。
- 和歌山県太地町
- 宮城県石巻市鮎川
- 北海道網走市
- 千葉県南房総市和田町
※ミンククジラの基地は現況では鮎川、八戸と北海道。
関東唯一の捕鯨基地「和田漁港」がある南房総和田町は、鯨漁期(6月末〜8月末)に捕獲された鯨の解体が港で行われ、この時期は町全体が一年で一番の活気に包まれます。ナギナタのような大きな鯨解体用の包丁で豪快に解体された鯨がその場で売り買いされるのも、和田ならではの風景であり、この季節の風物詩です。
70年以上の捕鯨の歴史を持つ「外房捕鯨株式会社」
日本でも数少ない捕鯨を始め、解体から加工、販売まで一貫して行っている外房捕鯨株式会社。
庄司さんに、捕鯨についてお伺いしました。
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外房捕鯨 庄司さん:和田浦港では6月下旬から8月末までツチクジラを捕獲します。ツチクジラはマッコウクジラに次いで大きい種類で、体長約10メートル、体重約10トンです。毎年夏に房総沖の水深1,000〜3,000mの海域を回遊しています。
捕獲数は自主規制をして22を上限としていますが、近年の捕獲数は10頭にも満たないことがほとんど。
ツチクジラは一度海に潜ってしまうと、一時間ほど水上に現れないため、なかなか捕獲が難しいです。音に敏感でソナー(音波を用いて、水中の情報を得る装置)も使えません。そのため、目視でクジラを探す必要があります。
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外房捕鯨 庄司さん:ヒゲクジラは鼻の穴が2つ、ハクジラは鼻の穴が1つあるため、噴射する潮の形が異なります。潮の形により、狙うクジラを見定めるのです。
夏以外は北海道の他、宮城の鮎川と青森の八戸などへ行き、捕鯨をしています。
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外房捕鯨 庄司さん:捕鯨の後は、捕獲したクジラを対象に水産庁の調査員による生物調査が行われます。体長、性別、年齢、皮下脂肪の厚さ、胃の内容物等を調査し、持続的利用に役立てます。
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外房捕鯨 庄司さん:続いて、大包丁で鯨の皮(脂肪層)を剥ぐ作業。房総では皮を食べる習慣がありませんが、東北や北陸地方では皮を塩蔵して、鯨汁を作ります。
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外房捕鯨 庄司さん:クジラを作業台に上げて筋を除去し、成形します。肉塊を人の持てるサイズに裁割。3,4時間で解体を終えます。
解体直後の肉はまだ温かい状態で、数時間前まで生きていたことを感じます。命をいただくことに感謝する瞬間です。
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外房捕鯨 庄司さん:クジラの解体の現場に、地元の小学生を招き、見学会を行っています。地域の産業や仕事を児童に体感してもらい、生き物が食べ物になるまでの過程を見ることで、命をいただくという食育の一環です。
小学生は捕獲されたばかりのクジラに触ってもらい、皮を剥ぐ音や夏の暑さの中に漂う生き物の匂いを体感。この地域の給食で出されるクジラが、どのように自分たちのところまで運ばれてくるのか学びます。
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
外房捕鯨 庄司さん:解体後は、加工業者や鮮魚店、地元の方々に直売します。
外房捕鯨では、クジラの加工と販売も行っています。おすすめは、房州銘産品の「くじらのたれ」と「ベーコン切り落とし」。※ベーコンはミンククジラで製造しています。
「くじらのたれ」はツチクジラの赤身を特製のタレに漬け込み、房州の太陽の下で天日干しにしたものです。ガスレンジで焼くと香ばしくなり、七味マヨネーズにも良く合います。食卓のおかずにも、お酒の肴にもぴったり。
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【つ印くじら家】
営業時間:8:45~17:00
定休日:木曜日
住所:千葉県南房総市和田町花園127-3
電話番号:0470-47-4780
「くじらのたれ」の老舗「ハクダイ食品」
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「くじらのたれ」を製造販売している会社をもう一社ご紹介します。「ハクダイ食品」は鯨料理を中心に自社製造のひものや塩辛、海藻などさまざまな水産加工品の製造販売を行っています。
くじらのたれが黒いのは、タレが黒いのではなく、クジラの肉に鉄分が多く含まれるため黒くなるのだそうです。
伝統的なくじらのたれは硬いですが、現在は3タイプを販売しています。昔ながらの硬めのもの、やわらかく仕上げたもの、独自製法でそのまますぐ食べられるもののなかから、お好みに合わせて選べます。
元々くじらのたれは冷蔵庫の無い時代の保存食として作られました。昔のくじらのタレは、今よりもっと硬くて塩辛いものだったそうです。
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
くじらのお刺身もおすすめ。美味しい食べ方は、凍結又は半凍結状態でスライスし、ショウガかニンニクを薬味に醤油で。
クジラはタンパク質が多く、コレステロールの含有量が少ない健康食として注目されています。その上、レバニンと呼ばれる抗疲労機能を持つ成分が豊富に含まれています。
社長の大川さんは、「全国の方に南房総の美味しい鯨料理を食べていただき、南房総に来ていただき、ぜひ作っているところを見ていただきたい。郷土料理を未来へとつなげていきたい」と語ります。
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【ハクダイ食品直営店】
営業時間:9:00~17:00
住所:千葉県南房総市千倉町白子1539
電話番号:0470-44-3608
クジラ料理が食べられる道の駅「和田浦WA・O!」「潮風王国」
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道の駅「和田浦WA・O!」と「潮風王国」では、クジラ料理が食べられます。
「和田浦WA・O!」館内にある食事処「和田浜」
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「和田浦WA・O!」館内にある食事処「和田浜」では、鯨料理や地魚料理を堪能できます。おすすめのメニューは、「くじら丼」。鯨の竜田揚げ、かつ、お刺身が一度に楽しめます。
【食事処「和田浜」】
営業時間:10:00~16:00(LO15:30)
住所:千葉県南房総市和田町仁我浦243
電話番号:0470-47-3100
道の駅「潮風王国」にあるハクダイ食品の直営食堂「市場食堂 せん政水産」
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道の駅「潮風王国」館内には、ハクダイ食品の直営食堂「市場食堂 せん政水産」があります。クジラの竜田揚げやカツを楽しめます。クジラの形をしたご飯が可愛らしいカレーライスも。
【市場食堂 せん政水産】
営業時間:9:00〜17:00(LO15:00)
住所:千葉県南房総市千倉町千田1051
電話番号:0470-43-1255
クジラ肉 お取り寄せ
まとめ
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南房総市和田町は江戸時代から捕鯨で栄え、今でも捕鯨漁が続き、地域の食卓にはクジラを用いた料理が並びます。
生でも、干しても、揚げても美味しいクジラのお肉。南房総市でクジラ料理をご堪能ください。
ライター紹介
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- 吉田櫻子
- フリーランスのライター・ディレクター。アパレル店店長と副業ライターを経て、独立。大手人材会社の社員紹介ページやSDGs系のメディアなど幅広く手がける。