南房総の太平洋岸、外房に位置する和田は、知る人ぞ知る「くじらの町」。
日本全国でわずか4ヵ所しかない捕鯨基地の一つである和田漁港には、毎年6月末~8月末にかけて26頭のツチ鯨が水揚げされるます。
和田の人々にとって鯨は、生活に根付いてきた「ふるさとの味」であり、「母の味」でもあります。南房総和田の郷土の味覚と、それをしっかりと守りつづける人々にをご紹介します。
目次
南房総の捕鯨の歴史
大型の鯨は国際捕鯨委員会(IWC)によって1988年(昭和63年)から捕獲停止となっていますが、小型の鯨類については日本政府が独自に管理し、毎年、捕獲枠を設定し、鯨を捕まえています。現在、日本で小型捕鯨の対象になっているのは、ツチクジラ、マゴンドウ、タッパナガ、ハナゴンドウの4種類です。
では、沿岸捕鯨の歴史をみてみましょう。
一、領分の船、鯨留め候上、壱疋の内より、初尾の為一尺八寸の皮壱枚宛とらるべく候事。
…中略…
慶長拾七 弐月七日 忠義 判
榎倉長兵衛殿
これは、鋸南町の醍醐家に伝えられた古文書の一節で、里見忠義が御師・榎倉氏を通じて伊勢神宮に鯨の尾の皮を献上していることがわかり、房総の沿岸捕鯨の存在を示す最も古い記録です。しかし、最近では、出土する擬餌針の材質が、鎌倉時代13世紀頃を境に鯨の骨が多く使われていること、また、鎌倉時代の日蓮の書状に見られる「房総のネズミイルカ(鯨の様な大型海獣と思われます。)という大魚の肉から、鎌倉では「油を絞っている」という記述、さらに鎌倉市内の遺跡から出土する多くの鯨骨の存在などから、鎌倉時代後半の13世紀頃から室町時代14・15世紀頃までには、房総で沿岸捕鯨が始められていた可能性が考えられています。そして、ツチクジラを捕獲対象とした房総の沿岸捕鯨は、江戸時代、鋸南町勝山の醍醐家により組織化され大きく発展しました。
醍醐組では鯨にモリを打ち込む「突き組」は、元締の下に世襲制で57艘が組織されており、全体の組織は、「旗頭」「世話人」といった幹部を中心に、「羽刺」と呼ばれるモリ打ち等の海上要員が約500人、陸上で鯨の解体や加工を行う「出刃組」「釜前人足」が約70人という規模となっていました。鯨漁の漁期は、6~8月で、江戸(東京)湾一帯を漁場としていました。
突き組が使用していたモリが「アガシモリ」で、形は「突きん棒漁」で使われる燕形離頭銛とほぼ同じです。このことから、突きん棒漁は、鯨漁から発展したとも考えられています。房総の捕鯨の特徴は、モリで突いて鯨を捕る「突き取り法」を採用したことです。各地で「網取り法」が主流になってもツチクジラが深くまで潜るため、網取り法が適さなかったので一貫して「突き取り法」で行いました。明治20年代前後には、関澤明清や醍醐徳太郎たちの努力で、捕鯨砲による洋式捕鯨を導入、明治31年には遠洋漁業株式会社が設立され、操業規模は拡大します。しかし、明治42年に鯨取締規則が制定され、漁獲高等に制限が加えられると、沿岸捕鯨を中心に活動が行われることになり、東海漁業株式会社(明治39年、房総遠洋漁業株式会社を改称)の拠点があった館山や旧白浜町乙浜へ、その他に旧千倉町七浦が、房総における沿岸捕鯨の拠点基地となりました。
その後、房総の沿岸捕鯨の伝統は、昭和23年、旧和田町和田浦に設立された外房捕鯨株式会社に受け継がれています。
ツチクジラ ~プロフィール~
生息地: | 北太平洋 |
分布地: | 太平洋側では本州三浦半島及び大島 (東京都) 周辺から 北海道東岸沖、北海道沿岸のオホーツク海及び日本海 |
種類: | 歯鯨 |
大きさ: | 雄で11.9m、 雌で12.8m、体重12トンに達します。 |
食糧: | 深海性イカ類や底生魚類を食べています。 |
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食文化
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「鯨って、食べられるの?」という若者たちの言葉を、最近しばしば耳にすることがありますが、戦後の食糧難、そして高度成長期においては、鯨は子どもたちの貴重なタンパク源の一つで、鯨肉は学校給食の中でも人気のメニューでした。
関東唯一の捕鯨基地「和田漁港」がある南房総和田町は、鯨漁期(6月末〜8月末)に捕獲された鯨の解体が港で行われ、この時期は町全体が一年でいちばんの活気につつまれます。ナギナタのような大きな鯨解体用の包丁で豪快に解体された鯨がその場で売り買いされるのも、和田ならではの風景であり、この季節の風物詩でしょう。
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![くじらのたれ作り](https://www.mboso-etoko.jp/_mgmt/img/369dfe0f48ac24d0b3626264bdb36a23.jpg)
町のあちらこちらでは、手のひら大にスライスした鯨肉を特製のタレに漬け込み天日干する「くじらのたれ」づくりも見られます。なんでも江戸時代から伝わる南房総を代表する伝統食として地元で親しまれ、和田から房総半島最南端の白浜を結ぶ「くじらのたれ街道」が存在するといいます。「酒の肴には、やっぱりタレがいちばん」と、地元の漁師たちに言わしめるほどです。
![道の駅 和田浦WA・O!にあるシロナガスクジラのレプリカ](https://www.mboso-etoko.jp/_mgmt/img/2024/03/d616ea5149ce246ac356a6b98c8687a5.jpg)
鯨の食文化が根付いている和田町では、もちろん「くじらのたれ」のほかにも、かつて学校給食で親しまれた「くじら竜田揚げ」をはじめ、鯨の旨味をそのまま味わえる「くじら刺身」、赤身を甘めの味付けでソテーする「くじらステーキ」、薄い塩味が効いた「くじらベーコン」、さらに「しぐれ煮」「くじら汁」「ユッケ」「カツ」「コロッケ」「焼肉」「お寿司」「お菓子」「サラダ」など…。いつ訪れても、本当に多彩な鯨料理を堪能できるのも魅力です。
鯨料理が食べられる 道の駅 和田浦WA・O!
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「道の駅 和田浦WA・O!」は海と花とクジラの街である和田浦の魅力を凝縮した道の駅です。
特に鯨にまつわる商品はバラエティ豊かで、ベーコンや刺身、缶詰などがあります。一番人気は郷土食である「鯨のたれ」。ツチクジラの赤身肉を塩または調味料に漬け込み、天日で干したもので、白飯のおかずや酒の肴に最適です。
![](https://www.mboso-etoko.jp/_mgmt/img/2024/03/10-5-1000x667.jpg)
食事処「和田浜」では、鯨料理や地魚料理を堪能できます。おすすめのメニューは、「くじら丼」。鯨の竜田揚げ、かつ、お刺身が一度に楽しめます。
【道の駅 和田浦WA・O!】
営業時間:直売店9:00~17:30/
レストラン10:00~16:00(LO15:30)/
テイクアウト10:00~17:00
住所:千葉県南房総市和田町仁我浦243
電話番号:0470-47-3100