南房総 旅の玉手箱

第14回 花追い人


千葉県で2軒の転飼養蜂家・島津英明氏

 ときには新妻を伴い南から北へ。桜前線を追いながら旅をする。5月、6月になると、山形、岩手はトチの木やアカシアの花が満開になる。南房総市和田町花園の島津英明さん(38才)は、数少ない転飼てんし養蜂家ようほうかである。花追い人などと書くといかにもロマンチックだが、本当はきつい労働で、日本一後継者の少ない仕事だという。純粋なトチ蜜やアカシア蜜を採るために、こまめに花を求めて移動する。130箱程の巣箱をトラックに積んだり降ろしたりを繰り返す。最近はブナやトチの原生林も失われ熊が里に出没し、大好物の蜂蜜入り巣箱を荒らす。蜂は、太陽の位置や巣箱の女王蜂フェロモンなどをたよりに自分の巣箱に戻る。箱の並べた位置が少しでもずれると、しばらくは迷って箱の上を旋回する。全国的に花の森は伐採され、国産蜂蜜の自給率は、5%〜10%の間である。

 英明さんは2代目の養蜂家である。父親の島津為吉氏は、大正3年生まれ。3年前、89才で亡くなるまで現役で働いていた。転飼養蜂家をテーマにした漫画の主人公で登場したこともある。「父の後を継ぐのは、本当にいやでした」と英明さんは言う。しかし、やがて、養蜂の世界の奥深さに引かれていく。
 巣箱の中には3万匹を超える蜂が暮らしている。体が5割程大きいのが女王蜂で、一つの巣箱にたった一匹、働き蜂にびっちり囲まれている。働き蜂は、巣箱を清掃したりする内勤蜂と、蜜を取ってくる外勤蜂と役割分担されている。働き蜂は、すべて産卵機能の退化した雌なのだ。当たり前だが、蜂は人間のためではなく、自分たちの食料として蜂蜜を集めている。ローヤルゼリーは、若い働き蜂の分泌物で、女王蜂の幼虫の食料である。蜜蜂社会の雄は、生殖以外の役には立たない。他の巣箱の女王蜂と空中交尾する機会をねらっている。交尾が終わった雄は、自分の内臓ごと、もぎとられて死んでしまう。俗に言う“腹上死”だ。

 蜜蜂は農業にも、無くてはならない役割をはたしている。イチゴ、リンゴ、ナシ、サクラ、メロンなどの花粉媒介である。最近、英明さんは、岩手県・椀子蕎麦わんこそばの里から、ソバの受粉を頼まれた。副産物のソバ蜜は真っ黒で、通好みの味(?)がする。蜂蜜も最近は玉石混交、本物の“液体宝石”を求める方は、南房総の島津養蜂場へ。


アカシアの花の下で


トチノキ。5月に紅斑のある円錐形の白い花が咲く。

熊に荒された巣箱


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