南房総 旅の玉手箱

第16回 植物の命を織り込む“唐棧織とうざんおり


唐棧織4代目 斉藤裕司氏

 中国の古い医学書に「草根木皮(漢方薬)は小薬なり、鍼灸(しんきゅう)は中薬なり、飲食・衣服は、大薬なり」とある。草木のエキスで染めた衣服は、身につけることにより自然治癒力を引き出す植物波動があると考えられていた。

 館山市長須賀の「唐棧織とうざんおり」は、植物の皮や実などを煎じて染液をつくり、木綿の糸を染め、紺地に黄や赤の細い縦縞の反物を織る。一般の草木染のように、染液の中で白糸を煮ない。白糸の風合いをそこねないために、40度(風呂の温度)程の染液で糸をていねいに、もみ込んで染める。兜鉢かぶとばちに入れた染液は、ガス火でかずに、マキで焚く。その方が糸にやさしいという。染液の色の濃淡は目ではなく、舌でなめて判断する。
 唐棧織の歴史は古く、豊臣時代にオランダ船で輸入されたインドの織物といわれる。斉藤家唐棧織の初代は、斉藤茂助で、明治の元勲・勝海舟にかわいがられた人だそうだ。続く豊吉氏、光司氏は共に無形文化財の指定を受けた。当時、豊吉氏の織った唐棧織の着物を女優の山田五十鈴いすずが着て週刊朝日の表紙を飾ったことがあった。その人気を博した新柄は「五十鈴縞」と呼ばれた。

 光司氏は最近体調を崩し、4代目は光司氏の長男斉藤裕司氏(44才)が継いだ。東京女子美術大学・元学長の柳悦孝よしたか先生に師事し、染めと織りを学んだ。しかし「父の長年のカンにはかないません」と裕司氏はいう。
 最近は、ゆかたブームからアンティーク着物、そして生活の中で着物を着る“セレブな和娘わむすめ”が出てきた。光司氏は伝統の基本をおさえた上で、時代のスタイルに合う唐棧織を織り出している。たとえば縞織りではなく、格子縞(チェック柄)や遠目には無地に見える織りなどである。「よみくずし」という唐棧織の古い織柄がある。横系に多くの色を使い、通常の10倍手間がかかる織ものを復元したという。小生も一着ほしくなり「唐棧織で作務衣をつくるとすると、おいくらぐらいですか?」と訊ねると、「だいたい仕立ては別で10万から15万ほどでしょうか」と裕司さん。「・・・・・」。
 唐棧織は日本で唯一、館山の斉藤裕司氏の手で伝統が守られている。


細い木綿糸で織られたものは
絹のような光沢がある。


草木で染めたやさしい色

初代から伝わる「古渡縞標本」


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